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序章|易の仕組みと爻の読み方――変化を読み、自分の行動を考えるために

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今は挑戦する時なのか、それとも準備を整える時なのか。
仕事や人間関係で迷ったとき、私たちは、目の前の出来事だけでなく、その先の変化も知りたいと考えます。

古代中国で育まれた易(えき)は、こうした変化を読み解こうとしてきた知恵の体系です。
占いとして用いられる一方で、人の成長、物事の進退、組織のあり方を考える古典としても読み継がれてきました。

この連載では、『易経』の言葉を、仕事や暮らしの具体的な場面に結び付けて解説していきます。
その前に、易がどのように成立し、卦や爻が何を表し、どのような順序で解釈すればよいのかを整理しておきましょう。

易はどのように生まれたのか

易の背景には、古代中国の占いの文化があります。
人々は農作業や政治、戦いなどの重要な判断に際して、目に見えない変化の兆しを知ろうとしていました。

その中で、数を用いる占いと、線を重ねて表す図形が発達し、卦に言葉を添える書物が形づくられていきました。
周代に成立の基盤を持つ『周易(しゅうえき)』が、その中心となる古典です。
成立年代や編集の過程には議論があり、現在の形が一人の手で一度に完成したとは考えられていません。

伝承では、伏羲(ふっき)が卦を作り、周の文王や周公が言葉を整え、孔子が解説を加えたと語られます。
ただし、これらは伝統的な成立物語であり、すべてを確認済みの歴史的事実として受け取ることはできません。

現在の『易経』を理解するうえでは、大きく二つの部分を区別すると分かりやすくなります。
一つは、卦と、その卦や爻を説明する短い言葉からなる本文です。
もう一つは、それらの意味を論じる易伝(えきでん)と呼ばれる解説群です。

易伝は「十翼(じゅうよく)」とも呼ばれ、物事の変化や人の振る舞いについて、哲学的な説明を展開しています。
こうした解釈の積み重ねを通して、易は、占いの書であるとともに、生き方や判断のあり方を考える古典としても読まれるようになりました。

易の基本は、陰と陽の二種類の線

易の図形を構成する最小の要素が、爻(こう)です。
爻には、切れ目のない陽爻と、中央が切れている陰爻があります。

種類形働きを考える際の例
陽爻━━━━━働き掛ける、押し進める、力を発揮する
陰爻━━ ━━受け止める、支える、柔軟に対応する

陰と陽は、働きの違いや関係を考えるための基本的な区分です。
陽だからよく、陰だから悪い、という意味ではありません。

たとえば、新しい企画を提案するには、前へ出る力が必要です。
一方、顧客の要望を聞いたり、仲間の働きを支えたりするには、受け止める力が欠かせません。
どちらの働きも必要であり、状況によって適切な使い方が変わります。

強く進める姿勢も、行き過ぎれば強引さになります。
柔軟に受け止める姿勢も、自分の判断をすべて手放せば、流されることにつながります。
易では、陰陽を固定した性格診断にせず、今の状況でどのように働いているかを見ていきます。

三本で八卦、六本で六十四卦になる

八卦は、自然の姿から働きを捉える基本の型

陰と陽の爻を三本重ねると、八通りの組み合わせができます。
これを八卦(はっか)と呼びます。

八卦には、天・地・雷・風・水・火・山・沢という自然の象徴が割り当てられています。
自然の姿を手掛かりに、物事の働きを考える仕組みです。

八卦読み方象徴働きを捉える手掛かり
☰ 乾けん天健やかに働く、力強く進める
☷ 坤こん地受け止める、支える、育む
☳ 震しん雷動き出す、奮い立つ
☴ 巽そん風入り込む、しなやかに行き渡る
☵ 坎かん水険しさ、困難に向き合う
☲ 離り火明るくする、付着する
☶ 艮ごん山止まる、区切りを付ける
☱ 兌だ沢喜び、和やかな交流

たとえば山は、動かずにそこにある姿から「止まる」という働きを考える手掛かりになります。
風は、隙間へ入り、周囲へ行き渡る姿から、しなやかに浸透する働きと結び付けられます。

ただし、表の短い説明だけで、一つの卦の意味が決まるわけではありません。
八卦には多くの象徴があり、他の卦との組み合わせや、本文の言葉と合わせて読みます。

上下に八卦を重ねると、六十四卦になる

八卦を上下に二つ重ねると、六本の爻からなる卦ができます。
下に置く八通りと、上に置く八通りを組み合わせるため、八×八で六十四卦となります。
陰陽二種類の線を六本並べる組み合わせ、二の六乗と考えても同じです。

下の三本を下卦(かか)、上の三本を上卦(じょうか)と呼びます。
内側と外側、自分側と相手側などに重ねて読むこともありますが、どの場面でもその対応に固定するわけではありません。

連載の最初に取り上げる乾為天は、下卦も上卦も乾です。
六本すべてが陽爻で、天の力強い働きが重なる卦として読まれます。

六十四卦は、六十四種類の人間を分類するためだけのものではありません。
始まり、成長、停滞、困難、協力、完成など、変化のさまざまな局面を考えるための型として読むことができます。

爻は下から数える――「初九」「九二」の読み方

卦を読むときに、最初に覚えておきたい決まりがあります。
六本の爻は、下から上へ数えます。
最初の一本が一番下に置かれ、その上へ順に積み重なります。

一番下を初爻(しょこう)、一番上を上爻(じょうこう)と呼びます。
間には、二爻・三爻・四爻・五爻があります。

本文で爻を呼ぶ際は、陽爻に「九」、陰爻に「六」という数字を使います。
ここでの九と六は、九番目・六番目という順番ではありません。
爻の性質を示す呼び名です。

図の位置陽爻の場合陰爻の場合位置の捉え方の一例
一番上・六本目上九上六極まり、行き過ぎ、次への移行
五本目九五六五中心的な責任や指導的な立場
四本目九四六四上の段階へ移った局面
三本目九三六三下卦の終わり、区切りや緊張
二本目九二六二下卦の中央で役割を担う
一番下・一本目初九初六始まり、基礎、まだ表に出ない段階

一番下が陽爻なら初九(しょきゅう)、陰爻なら初六(しょりく)です。
下から二本目が陽爻なら九二、陰爻なら六二になります。
乾為天は六本すべて陽爻なので、下から初九・九二・九三・九四・九五・上九と並びます。

位置は解釈の手掛かりになりますが、「上にあるほどよい」とは限りません。
たとえば乾為天では、九五の飛龍に対して、さらに上の上九には、昇り過ぎを戒める亢龍の言葉があります。
高い位置には、その位置に応じた責任や危うさがあると考えます。

また、二爻と五爻は、それぞれ下卦と上卦の中央にあるため「中」の位置と呼ばれます。
偏りを抑え、適切な態度を保つことを考える際に重視されますが、この位置にあるだけで、必ず吉になるわけではありません。
位置の説明と、実際の爻辞を一緒に読む必要があります。

卦辞と爻辞――全体の状況と、局面ごとの教え

『易経』の本文を読むと、卦全体の説明と、一本ごとの爻の説明が出てきます。
この二つを区別すると、同じ卦の中に異なる助言がある理由が分かります。

言葉読む対象乾為天の例
卦辞(かじ)卦全体の性質や判断元亨利貞
爻辞(こうじ)それぞれの爻の局面や判断初九の「潜龍勿用」、上九の「亢龍有悔」など

卦辞は、物語全体の主題をつかむ言葉。
爻辞は、その物語の中で、いま問題となる場面を詳しく見る言葉。
初めは、このように考えると理解しやすくなります。

ただし、六つの爻を、誰もが必ず順番に経験する人生の年表にする必要はありません。
始まりから終わりへの変化として読む場合もあれば、立場や役割の違いとして読む場合もあります。
どのような場面を示しているかは、卦全体と各爻の言葉から考えます。

乾為天全体が力強い性質を持っていても、初九ではまだ表に出る時ではないとされ、上九では進み過ぎが戒められます。
これは矛盾ではありません。
同じ行動力でも、準備期に使う場合と、十分に役割を得たときに使う場合とでは、適切な振る舞いが違うからです。

「吉」「凶」「無咎」は、条件と合わせて読む

易には、吉・凶・悔・吝・無咎など、判断を示す言葉が出てきます。
吉は好ましい方向、凶は問題や不利への警戒、悔や吝は後悔や行き詰まりに関わる言葉として読めます。
無咎(とがなし)は、咎めとなる問題がない、あるいは避けられるという趣旨ですが、文脈を確かめる必要があります。

大切なのは、その前後に書かれた行動や条件です。
「慎重に行えば無咎」と読める言葉から、慎重さを取り除いて「何をしても安全」と考えることはできません。

また、「利」は何かをするのによいことを示し、「貞」は正しさや堅実さを守る意味で読まれることがあります。
古い占いの言葉としての解釈もあるため、一文字に一つの現代語訳を当てはめるより、その文章全体が何を勧めているかを確かめます。

占いでは、本卦・変爻・之卦を区別する

易を占いとして用いるときは、筮竹(ぜいちく)やコインなど、一定の方法で卦を得ます。
こうして卦を立てることを、立卦(りっか)と呼びます。

六本の陰陽を下から順に定める方法では、最初に得られた卦が本卦(ほんか)です。
その中に、陰から陽へ、または陽から陰へ変化する爻があれば、それを変爻(へんこう)と呼びます。
変爻を変化させてできる卦が、之卦(しか)です。

代表的な立卦法では、爻を定める数に六・七・八・九を用い、次のように区別します。

得られた数呼び名本卦での形変化
六老陰陰爻陽爻へ変わる
七少陽陽爻変わらない
八少陰陰爻変わらない
九老陽陽爻陰爻へ変わる

ここでいう老・少は、人間の年齢ではなく、陰陽の状態を区別する名称です。
また、本文に「九二」と書いてあることと、今回の占いで二爻に九の数が出たことは、区別してください。
九二は陽爻の位置の呼び名であり、その爻が今回変わるかどうかは、占った結果を見て判断します。

たとえば、乾為天で初九だけが変わる場合、一番下の陽爻が陰爻へ変化します。
上の五本はそのままなので、変化後には天風姤(てんぷうこう)という別の卦ができます。
これが、本卦の乾為天から、之卦の天風姤へ変わるということです。

本卦を現在、之卦を未来として読む例もありますが、之卦を「必ずそのとおりになる将来」と固定する必要はありません。
変化の方向や別の側面など、どこに重点を置くかは占法や問いによって異なります。

また、変爻は一本とは限りません。
変爻がない場合も、複数ある場合もあり、どの卦辞・爻辞を中心に読むかには、伝統や流派ごとの規則があります。

結果を見てから、都合のよい爻や解釈の規則を選び直さないことが大切です。
使う方法をあらかじめ決め、最初の問いと、得られた卦・変爻を記録しておくと、読みを振り返りやすくなります。

解釈は「問い・全体・爻・現実」の順に進める

まず、何について尋ねるのかを具体的にする

「これからどうなりますか」という問いでは、仕事、家庭、人間関係など、何を中心に読むべきかが曖昧になります。
「新しい企画を来月提案するに当たり、何に注意すればよいか」のように、対象と場面を絞ると、言葉を現実に結び付けやすくなります。

相手の心を一方的に決め付ける問いだけでなく、自分にどのような行動が求められるかを考える問いも役立ちます。
易の言葉から得た解釈と、実際に確認できた事実は分けて扱います。

卦全体を読み、注目する爻の意味を確かめる

卦名や上下の八卦、卦辞から、まず全体の主題をつかみます。
そのうえで、用いた占法に従って爻辞を読み、その局面にどのような注意や行動が示されているかを考えます。

象徴だけで決めないことも大切です。
火だから必ず争い、水だから必ず災難、というように、一つの連想で結論を出すと、本文の意味を見失います。
卦の形、言葉、爻の位置を照らし合わせて読みます。

具体的な出来事に置き換え、次の行動を考える

ここで、解釈の流れを示す創作例を考えてみましょう。

会社員の美咲は、新しい企画を思い付き、すぐに発表したいと考えています。
「今、この企画を大きく打ち出すに当たり、何を大切にすればよいか」と問い、乾為天の初九が変わる結果を得たとします。

乾為天の力強い印象だけを見れば、美咲は「積極的に進めばよい」と受け取りたくなります。
しかし、初九の「潜龍勿用」を読むと、まだ表に出て大きく力を使う時ではない、という注意があります。

そこで美咲は、企画そのものを捨てるのでなく、準備の状態を確かめます。
すると、利用する人への聞き取りが足りず、必要な人員も見積もっていないことに気付きました。

美咲は、まず関係者に話を聞き、小さな試作を見せて反応を集めることにしました。
「いつまでも待つ」のではなく、何を確かめたら提案へ進めるかを決めたのです。

この例では、卦が企画の失敗を証明したわけではありません。
全体の推進力と、初九が促す慎重さを合わせて読み、現実の準備不足を見直す行動へつなげています。
之卦も、用いた方法に応じて、変化を考える追加の手掛かりとして読みます。

占いとして読むことと、人間学として読むこと

この連載では、占いでその卦が出た場合の解釈と、古典を仕事や人生へ生かす読み方の両方を扱います。
両者はつながっていますが、同じものではありません。

占いとして読む場合は、問い、立卦の方法、本卦、変爻など、実際に得た結果を出発点にします。
人間学として読む場合は、各卦や爻の言葉を通して、自分の態度や組織の課題を振り返ります。

たとえば、学び始めた分野では「潜龍のように基礎を養おう」と考えられます。
これは古典を使った自己点検であり、占いで初九を得たこととは区別します。
経験豊かな人でも、新しい分野では準備から始める必要があるという気付きにつながります。

また、卦を「大吉か大凶か」に置き換えるだけでは、行動や条件の説明が抜け落ちます。
好ましい局面にも守るべきことがあり、厳しい局面にも、取り組めることがあります。

易を読むときの問いは、「何が起きるか」だけではありません。
「今の自分には、どのような振る舞いが求められるか」という問いも大切です。
自分の力を発揮することと、その力を適切に使う自己規律を、一緒に考えていきます。

まとめ――変化の中で、自分の役割を見つける

易の図形は、陰と陽という二種類の爻からできています。
三本で八卦、六本で六十四卦となり、爻は一番下から数えます。
卦辞で全体の主題をつかみ、爻辞で局面ごとの意味を確かめることが、読むための基本です。

占いでは、本卦・変爻・之卦を区別し、用いた方法の規則に沿って解釈します。
そのうえで、古典の言葉を現実の出来事と照らし合わせ、次に取る行動を考えます。

進む力も、待つ力も、人を支える力も、適切な時と使い方があります。
この連載では、六十四卦に描かれたさまざまな局面をたどりながら、事業や組織を育て、自分の行動に責任を持つための知恵を読み解いていきます。

参考資料

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